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ゆりら文庫

創作小説ブログ

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第十夜(最終回)

最寄り駅で荷物を持ち、電車を待っている。傍らには友人が一緒にいる。彼女とは中学から高校までの学校生活を共にした、たいへん気心の知れた仲である。

やがて客車を引いた蒸気機関車が、その黒い巨体をガシュガシュとうならせて駅に入って来る。客車には前と後ろにドアが付いており、自分たちは後ろのドアから乗車した。座席は二人掛けのものが通路を挟んで二列に、全て進行方向を向くように据えられている。しばし空き席を探した後、向かって右側の座席に二人並んで座り荷物を下ろした。自分は通路側、友人は窓側である。やがてドアが閉じられ、機関車が汽笛を一声響かせゆっくりと動き始めた。と思った時に目は覚めてしまった。

あの時機関車はどこに向かっていたのか、考えてみれど分からない。きっと行き先は現実だろう。

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第九夜

見ず知らずの海岸で、自分は静かに空を見上げていた。浅緑色に曇る空に向かって、透明な円筒がまっすぐ伸びている。地面から斜めに続くそれは、人ひとりであれば入れそうな大きさだったので、自分はそれが宇宙へと続く道なのだと思った。

気がつくと辺りは無重力の真暗で、星が瞬き、眼下には青く光る故郷の惑星があった。自分はもう宇宙にいて、すぐそこにある銀色の軽い扉を開ければ大地へと帰る道があるのだと知っていた。

扉の取手をひねると、その先には浅緑色の空が広がり、今しがた自分が佇んでいた海岸が僅かながら遥か下に見て取れた。後ろ手に扉を閉め、無重力の身体を辛うじて操りながら、目の前に据えられた小さな銀色の足場に降りたった。その足場から、あの透明な円筒を一直線に滑降していけば、大地に降り立てるのだと分かった。

足場の銀色の手すりを握りしめながら慎重に円筒の中に腰を下ろした自分は、そっと手すりから手を離した。一息に滑降してしまうという不安やらとは裏腹に、鉄板敷きの滑り台は凹凸だらけのうえ傾斜が緩く、幾度となく途中で止まった。止まるたびに、足で底を蹴り進まなければならなかった。自分は前に滑った何者かが落とした物を、途中途中で拾いながら進んだ。それは色味や形、大きさからして西瓜の種らしかった。

どれほどの時間がかかったのかは知れないが、とうとう自分はあの海岸へ降り立つことができた。もと来た道を振り返り仰いだ時、自分が見たのはあの透明な滑り台ではなく、自宅の天井であった。

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第八夜

気がついた時、そこは自分がよく知っている、冒険もののテレビゲームの世界であるとすぐに思った。友人や自分の身なりと所持する物がいかにもそれで、だからその薄色の壁をした廃工場にいる目的も、当然のごとく知っていた。

ならば進むより他無いと、二人で連れ立って螺旋をえがいた鉄階段を降りていく。しかし踊り場に差し掛かった所で、全身を鎧で覆った大男が、巨大な斧を振り回して自分たちに襲いかかった。螺旋の内側の方へと道が続いていたので、すばやく大男の脇をすり抜けて道へ進もうと決めた。自分はこれを上手いようにやってのけたが、友人は少しばかり逃げ遅れて軽傷を負った。

大男は追いかけてくることはなかったが、道を進むうちに暗くなり、どこかに息を潜めていた小鬼たちが一斉に二人めがけて跳びかかってきた。しかし自分たちはその敵襲に少しも動じることなく、背中にかけた剣を抜き放ち、小鬼めがけて切りかかった。無傷の自分が構えた剣からは光が放たれ、二三の小鬼をころりとまとめて退治した。

やがて小鬼もすっかりいなくなると、ふいに自分の剣が青く輝き、見覚えのある青い少女の精霊が姿を現した。この先に、廃墟を支配する悪の主がいるとか、そんなことを言っていた。友人を促して先へ進むと、梯子が壁伝いに上へと伸びているのが見えた。梯子は途中から、人が一人やっと通る具合の穴に隠れて見えなくなっている。穴の中で敵が待っているかもとか、それを心配することもなく、自分が先に梯子を上り始め、後に友人が続いて来る。

穴の先には小さな店があった。後に続いて進んでいたはずの友人が、いつの間にか自分を追い越して待っていた。自分はそれを微塵も不思議に思わず、ただ行く先に姿を現したその小さな露店を見て、駅の売店をふと思った。

ついに自分たちは、夜明けまでに闇の向こうにいる悪の主の姿を見ることさえ叶わなかった。

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第七夜

自宅の二階の寝室にいる。何やら無性に空が飛びたくなって、一心にその場で跳び上がることを繰り返していた。いくら力の限り両足で踏み切ってみても、身体は重力に従って落ちるばかりである。

それが何も変化しないことを知り、飽きて兄の部屋に踏み込んだ時だった。身体がふわりと確かに宙に浮いた。ただ歩くために必要なだけ踏み切った少しの力でも、部屋の中ほどまでの高さまで身体が浮き上がった。

足が床についた後、部屋を出ることにした。一度自分の四肢をいっぱいに広げ、心ゆくまで浮遊感を堪能したいと思った。それで隣の自室に出て、助走をつけて兄の部屋に飛び込んだ。しかし、どうも部屋が無重力でなくなったらしく、自分は無防備な顔面を強打した。痛みはない。ただ残念だとの思いで兄の部屋を出ようとした時、部屋の隅に、幼い頃にテレビの子ども番組に出ていた着ぐるみのキャラクターが小さくなったものが浮いていた。そういえば彼女も、空を飛びたいとその童心で願っていた気がする。

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第六夜

自宅の最寄り駅のホームで、学校に行くための電車を待っている。しかし、次の電車に乗ったとしても、遅刻するのは確実だった。それで自分は一時も落ち着くことなく電車を待っていた。

すると不意に駅のベルが鳴り出し、当初の時間よりも早く電車が駅にやってくる。自分は微塵も不思議がることなく、ただ遅刻を免れる喜びからその電車に意気揚々と乗り込んだ。電車がゆっくりと動き出す。途端に車体が大きく傾いた。電車はさながらジェットコースターのように上り下りを繰り返し、猛スピードでどこかに突き進んでいく。自分は浮遊感を感じながら、とにかく一刻も早くこの電車が止まることを祈り続けた。

程なくして電車は停止し、ドアが開いた。降りてみると、そこは見ず知らずの洋館の前だった。白壁に上品な漆黒の装飾が施されたそれは、一見すると教会のようにすら見える。自分の足は自然と木製の扉の方へと吸い寄せられ、屋敷の中へと入って行った。中は薄暗く、時々見知らぬ人々とすれ違う。やがて自分は屋敷の女主人らしき人と出会い、見せたい物があるからついて来なさい、というようなことを言われた。女主人に案内された先にあったのは、一枚の絵であった。額縁に納まったそれは、真っ白な紙に黒いインクで、不精ひげを生やした男の顔が描かれているという物であった。唐突に女主人から「この絵を買いなさい」と告げられた。自分はいくら絵が好きでも、その絵はどうにも好きになれなかったし、第一学校に行かなければならない。だがどうしてもはっきりと断れなかった。なおも陰鬱な口調で懇々と頼み続ける女主人に押し切られ、自分はついに買うと返事してしまったらしい。

気がつくと自分は、大きな籠の中に連れ込まれていた。根拠はないが、あの恨めしい男の絵を買ったせいで、これからどこかに連れていかれるのだと思った。そして、近くに立つきらびやかな衣装を身にまとった少女戦士たちが、自分を成敗したのだということもまた、根拠なく思った。

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第五夜

こんな夢を見た。

居間のテレビに目をやると、世界の恐怖映像を集めたという番組が放送されている。映っているのは、薄暗い室内にいるスキンヘッドの白人男性。白目の部分に妙な模様が浮かび上がっていることを、自分の目を指さしながら告白している。

なおも話を続けていると、男性は徐々に言葉が途切れ途切れになり、頭を押さえてゆっくりとうずくまっていく。途端に男性は顔を上げ、大声を張り上げた。その白目をむいた形相は、理性を完全に失ったそれであった。いつの間にか男性の顔は、虎の左背中の模様と化していた。人面模様の虎は、もう一匹の普通の虎と激しく戦っていた。テレビの向こうではない、自分の目の前であった。

もしも私が「夢十夜」を書いたら ~第四夜

なんでもそこは薄暗い劇場らしく、わずかに傾斜のついた広い屋内に、座席がたくさん並んでいる。その座席の列を二、三列挟んだ向かいに、細身の女が立っている。年の頃は自分より幾分上であろうが、極めて若々しかった。艶やかな長髪を後ろで一本に束ね、パリッとしたスーツに身を包んでいる。自分の左には白いYシャツを着た男がいて、彼とともにステージ側の女と睨み合いを続けていた。

撃ち合い寸前のピリピリした空気。早く動かねば撃たれる。そう思って急いで近くの物を拾い上げて構えた。しかしそれは、飲み物を入れておくドリンクキーパーであった。敵と思われる女は自分に、呆れたという様子の表情を向けるより他無かった。

すぐに味方の男が、本物の武器がこちらにあると促した。そちらに近づいて手に入れたのは、バズーカタイプの水鉄砲であった。右肩に乗せるように構え、照準を覗き込みながらレバーを引くと、シャワーのように水が発射された。射程距離は優に5mを超えていたと思われる。その砲撃を女に向かって放つと、女は笑いながらおろおろと逃げ惑った。それが先ほどまでの女の様子とあまりに違いすぎて滑稽なことこのうえなく、自分はさらに追い打ちをかけた。